絹の食害
絹は古今東西人々の憧れの繊維で、古くは資産的価値
をも有する物でした。
したがって、絹は大事に仕舞われる事が多く、いざ着よ
うとして取り出したらいつの間にか虫に食われていて、
あわてた経験のある人は大勢いらっしゃると思います。
絹を食う虫
繊維害虫は今日までに40種類ほど知られていますが、
多くの繊維害虫は絹を食べません、しかし「蓼喰う虫も
好きずき」と言われるように、絹を好んで食べる虫もい
ます。この虫たちは絹を構成する蛋白質を消化する酵素
を持っていて、他の虫が敬遠する絹を独占して食べられ
るからではないかと思われます。
それは一般的に「カツオブシ虫」と言われる小さな虫で、
正式には「ヒメカツオブシ虫(鞘翅[甲虫]目)」「ヒメマ
ルカツオブシ虫(鞘翅[甲虫]目)の2種類です。
他にイガ(鱗翅目)という虫も絹を食べるので、日本に
はつごう3種類の絹食害虫がいます。
絹食害虫の食性
絹を食べる3種類の虫達の好物は絹よりむしろ毛です。
毛の中でも上等なカシミア(シャトウシュ)には目があ
りません。カシミアと一般の羊毛を一緒にしまっておく
と、カシミアの方に食害が集中します。
毛織物の善し悪しは虫に聞いてみるのが一番です。
この虫達は雑食性で食べる物がなければ木綿や麻などの
天然繊維ばかりか、ナイロン、ポリエステル、アクリル
などの合成繊維も食べます。
虫にとって絹の何処が好みか
肉や魚、野菜、果物どんなものでも美味しい部分とそ
れほどではない所があります。虫にとって絹にも旨い部
分とそうでない所がある様です。
絹の糸を作る時、糸を保護している糸の外側のセリシン
の取り方(精練)で糸の風合い、感触が千変万化します。
虫はセリシンが多く付いている物の方を好みますので、
シャリとしていたり、ザラっとしている物や艶のない固
めの絹紡糸、即ち、お米でいえば糠の部分が多く付いて
いる方を好みます。虫は栄養豊富な方を選択しているの
です。10づき米の様によく精練されてセリシンが殆ど糸
に付着していなシホンの様ない物はあまり好みません。
よく精練された物を虫が食べる時、未精練の物を食べる
ときの様に穴をあけるのではなく、糸の表面をなめる様
に食べる事が多いです。ちょっと目には穴があいていな
いので、虫には食われていないと思いがちですが、表面
を削られた糸の部分からは目に見えないほどの毛羽立ち
が起こります。
カツオブシ虫の行動
カツオブシ虫はあまり高い所は苦手のようで、地上か
ら!0〜15m位の高さしか飛ばないようですので、4階以
上の建物にお住まいの方は殆ど絹の食害は有りませんが、
エレベータなどで高い所にも辿り着き生活する虫もいる
ようですので気をつけるに越した事は有りません。
この虫は日本中均等に何処にでもいるわけではありま
せん。地方によっては生息しない所も有るようですが正
確な調査はされていません。
防虫対策
防虫対策の1番目は何といっても使ったまま収納しな
い事です。身体の老廃物や食品の飛沫など虫の好物を残
ささない事が肝要です。
絹は防虫加工しないのが一般的ですので、収納容器には
樟脳やナフタリン、パラジクロルベンゼン系等の昇華性
防虫剤を入れるのがよいと思います。
絹を食べる虫は食品も食べますので、家の中に食品の食
べ残し等が床や畳みに付着していない様によく掃除する
事、特に台所や食堂を清潔にしておく事が大きな防虫対
策です。
もう一つの防虫対策は仕舞い込まずに頻繁に使う事で
す。収納場所から出して風を通すのもその一つです。
絹を通った空気はほんの少し広葉樹林の森林浴的効果が
あると思われますので、その空気を吸う事で気持ちが和
らぎ,幸せホルモンの分泌が促され、イライラしなくな
ります。昔の殿様や明治の元勲達の部屋の襖や壁に絹を
多用した事もうなずけます。
虫が好む絹の方が健康維持の機能性などが精練されて
柔らかく艶のある絹より高いといえるでしょう。
これからは虫に教えてもらいながら絹を健康の為に使う
事を広めて行きたく思います。
食害を受けない絹
野蚕絹で特にタンニン類の色素がセリシンにもヒブロ
インにも含まれているタサール蚕や柞蚕、与那国蚕等は
虫がタンニンを嫌うとみえて、食害の報告はありません。