絹の後練り,先練り
絹は繭のどの部分を使うか、後練りか先練りかで織物
の柔らかさ硬さが大きく異なります。
大別して、長繊維として繭から揚げた糸(現代の繭から
は1500m前後とれる)を何本か合わせて糸にして、よ
く精練(繭糸の外側に付いているニカワ質のセリシンを
とる、練るとも言われる)された物は艶やかで、さらり
としていて張りがあり、「これぞ絹!」なのですが、絹
に不慣れな人からは麻ですか?と聞かれる事があります。
長繊維をとった残りは繭糸が切れていますので、短繊維
として絹紡糸(紡ぎ糸)にされます。
糸の撚りのかけかたにもよりますが、艶は長繊維の物よ
り劣ります。空気を含んでいて暖かく、木綿タッチでソ
フトな柔らかさがあり、一般的には喜ばれます。
後練り織物
羽二重はなぜ柔らかいか
よく世間では赤ちゃんのほほをなでて「羽二重の様な
肌」という様な表現をします。しっとりしていて、柔ら
かくしなやかな物に出会った時に使われます。
多くの人が抱いている絹のイメージなのでしょうか。
絹織物は先練りか後練りかで、しなやかさの性質が大き
く違って来ます。
羽二重を作る時は繭から揚げた糸(生糸)をニカワ質の
セリシンが付いたまま、糸に撚りをかけず、水でぬらし
て強く張った「たて糸」に、同じ様に撚りのない生糸を
「よこ糸」にして緻密に織り上げると、硬直してゴワゴ
ワした織物が出来ます(生機:きばた)。それを石鹸や炭
酸ソーダ、ケイ酸ソーダなどでの精練液で煮沸するとセ
リシンが溶けて除去され、今まで固くくっついていた細
くて長い糸の繊維の束の1本1本が動きやすくなって、
やわらかい織物が出来ます。これが後練りという技法で
す。
この技法で身近な物に縮緬やクレープがあります。
縮緬は生糸を「たて糸」にして、「よこ糸」に互いに撚り
の逆向き(S撚り、Z撚り)の強撚糸を2本ずつ交互に
織り込んで作ります。織り上がった生機はセリシンのニ
カワ質が付いているのでゴワゴワしていますが、精練す
るとシボのある柔らかいくサラリとした生地が出来ます。
同じ後練りでも随分感触が違います。
他にクレープデシンや光沢の美しさを強調した物に生絹
(きぎぬ)朱子、綸子、サテン等があります。
富士絹のやわらかさとの違い
よく羽二重とやわらかさを比較される絹に富士絹があ
りますが、富士絹は生糸を採った残り糸を細かく切って、
絹紡糸として木綿の様に織った物で、空気を含んだ柔ら
かさで、ぬめり感が違います。
後練りの化学繊維への応用
絹に限りなく近づけようと絹織物の後練り技法を応用
した化学繊維にポリエステルがあります。
先練り織物
先練り織物は生糸を精練してから織るのですが、生糸
をそのまま精練するとけばだってしまい、織りにくくな
るので、生糸にあらかじめ撚りをかけてから精練して、
セリシンのない絹糸(練り糸)を「たて」「よこ」に使っ
て織り上げた物が先練り織物です。
ブロケード、錦織、緞子などの美術的織物、サテンや
素朴な紬など、多くの絹織物は先練り織物ですが、糸の
練り具合と、糸の撚りの掛け方で硬軟、織物の風合い(
ぬめり、シャリ感、こし、張り、膨らみの強弱等手触り、
光沢、色、ドレープ性、絹鳴り、衣ずれ、視覚等の人の
心に触れる官能、など)が大きく変化します。さらによ
こ糸に太い糸など入れれば千差万別に組み合わが可能で、
限りなく幾種類もの織物が出来ます。
また、練り糸を染色してたて、よこに織ると縞、格子、
絣、各種多色模様など多種多様な先染め織物になります。
後染め織物には手描き、型染め、絞り、木版プリントな
どがあります。
産地の違い
後練り織物と先練り織物では精製に適した湿度が違う
ため、比較的湿度の高い日本海側に後練り織物産地が発
達し、内陸側に先練り産地が形成されました。
人類5千年の絹への切磋琢磨の結果
人が絹と取り組んで5千年の間に、糸づくりや織りの
多様さには目を見張る物があります。また、うすい物を
織らせたらインド、ドレープのしなやかさを表現するの
はイタリアなどそれぞれの国で特技があります。
絹文化を「世界共通の絹文化遺産」として国連に登録で
きないものでしょうか。