絹の糸の構造
絹ってどんな繊維
絹は天然繊維の中で綿や麻の様なセルローズ系の繊維ではなく、ウールと同じような蛋白系のアミノ酸鎖で
出来た繊維です。その蛋白質も球状蛋白質ではなく真っすぐに連なる繊維状蛋白質で、セリシン、フィブロ
インという2種類から構成されています。他にロウ質、炭水化物などがほんの少々混じった特異な繊維です
絹の蛋白質
セリシンとフィブロインは同じ蛋白質でありながらアミノ酸の種類と結合の順序が違うので、物理的、化学
的、生理的機能の違いが生じます。
セリシンのアミノ酸組成はセリンが1/3で水と親しみやすいスレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸な
どで70%威以上を構成している水に溶けやすい成分です。フィブロインは分子量の小さいグリシン、アラニ
ン、セリンなどで占められているので強く縦に結びついていて強靭で伸縮性があります。
野蚕ではアラニンの方が多いといった違いがあり、蛋白質の結晶の化学構造も異なるので、強度や各種機能
性、染色性の違いが出て来ます。この事が染織家に野蚕染まらないと云われる所以です。
絹糸の構造
1本に見える絹糸は蚕の体内にある左右1対の絹糸腺から出された2本のフィブロインがセリシンで覆われ
たものです。
セリシンは水やアルカリに溶けやすい順に4層になってフィブロインを包んでいます。
その割合は繭の種類によって異なりますが、家蚕ではセリシンが20%〜30%,フィブロインが70% 〜80%で
す。セリシンを取り除く事を精練といって、きれいに精練すれば滑らかなシホン地の様になり、なん部練り
にするかでシャリ感が出てきたり、生地の風合いや感触が違って来ます。こうした加工の違いで絹が麻の様
にもなりフワフワ、スベスベの柔らかい繊維にもなるゆえんです。フィブロインは1000本のフィブリルの
束から出来ていて、さらにそのフィブリルは900本のミクロフィブリルから構成されており、ミクロフィブ
リルは350本の分子が縦に繋がって作られていて、それぞれが規則正しく縦方向に並んだ結晶領域と不規則
な並び方の非結晶領域が4:6の割合で出来たものです。
これが絹の性質を決定づけている大きな要因です。結晶部分の分子は強く引き合い、凝縮しようとするの
で引っ張る力には鋼鉄より強いといわれ、弾力性に富んでいます。
非結晶部分は分子の並びがアットランダムなので伸縮性があり柔らかく、不規則の分子の間に水分も多く吸
収で絹を着て暫くすると体が温まるという保温効果(空気を含むというもう一つの理由もある)を発揮し、
一定の湿度を吸収すると放湿を始めるという溜池的な機能を果たしています。放湿の時発生する気化熱は上
がり過ぎた温度をさますという役割を果たしています。
この様なわけで絹を着用すると品よくほのかに暖かく、蒸れなくてべとつかなく、気持ちがよいというわけ
です。
こうした絹を構成する分子の幾種類もの親水基は絹の優れた染色性にも寄与しています。
この様な糸の構造は繰り返し摩擦が加わると、フィブロインが竹を割った様に裂かれフィブリルが枝毛にな
って現れます、更に摩擦が繰り返されるともっと細いミクロフィブリルも裂けて湯気の様な繊毛を発生させ
ます。ですから、絹のもみ洗いは避けて下さいという理由です。
また、シャリットしたセリシンが多く含まれた絹を洗う時はセリシンがニカワ質的蛋白質なので高温で洗濯
をすると親水性と相まって水に溶け出してしまいます。絹を長持ちさせるためには30℃以下の水で洗濯する
とよいといわれるわけです。